carmine跡地

はてダの跡地です

硫黄島からの手紙

土曜に見て、日曜にもう一回見てきました。なんで二日連続なのかというとただ単に己の不手際です。チケットをネット決済した際に、日にちを間違えて購入したからです。しかもプレミアムシートで見る予定だったので、2500円×2回。なんだこのセレブ。5000円かけて見てしまいました。まあね、ふっかふかの大きなシートで超リラックス状態で見れるから、2時間半もある映画なのにちっとも疲れず眠気も感じず見れたけどね。さすがプレミアムシート、だけどね。
9日の昼間に映画「硫黄島からの手紙」を見て、その日の夜にテレビで硫黄島のドラマを見て、翌日また映画を見て。頭の中が硫黄島です。
母と携帯メールをやりとりしている中に『硫黄島からの手紙を見てきたけど 硫黄島の戦いのこと初めて知ったよ。なんで学校でちゃんと教えないんだろうね』と書いたら『馬鹿!教わってるでしょ。教わっていなくても関心を持っていれば覚えるもの。ただ興味が無かっただけじゃないの。いろいろ興味を持ちなさい。生き方が広がるよ。若いうちだよ。』と返ってきた。おかーさまの仰る通りです。教わってないなんて言い訳だな。日本史の教科書を読み返せば大なり小なりの記載はきっとあるはず。「学校でちゃんと教えてくれなかったもん!」なんて子供の言い訳だね。興味を持つ事。大切な事だ。


以下、感想です。


感想として書けるような感想はありません。感動も無い。星条旗よりはわかりやすい人間描写はあるけれど、あくまでも淡々と感情を押さえた描かれ方をしている。私がこの映画を見るために積極的に映画館へ足を運んだ動機はもちろん二宮さんが出演しているからでありますが、見始めたら役者への思い入れも忘れた。淡々と。とにかく、淡々と。説明はされない。戦況や戦術は登場人物の台詞から察するしかなく、戦場全体の描写ははっきり言って全くされない。司令部がどういった作戦を立て、どの程度の深さ長さの洞窟をどの程度の期間掘っているのかもわからない。掘削作業の過酷さも充分には伝わってこない。栗林中将が硫黄島に着任してから戦闘が始まるまでどの程度の期間があったのかもわからない。日本軍米軍の火力もわからない。あくまでボンヤリとした情報しか観客には与えられない。私たちは一介の兵士…軍人として訓練を受けた士官ではなく、徴収され戦場にいる一般人の目線で翻弄される。感傷を挟む余地は無い。大宮でパン屋を営んでいた西郷(二宮)の目線にカメラは据えられている。私の感情の揺れは西郷とシンクロしていた。
だってね、泣いてる場合じゃないんですよ。死に対して涙を流している場合じゃない。とにかく走る。弾丸の雨の中を走る。自分の隣を走っていた友が倒れても立ち止まって涙を流し別れを惜しんだりしている余裕なんて無い。目の前で自決してゆく仲間を止めることも出来ず、自分の番が近付いてくることにパニックになり、上官がいなくなったのを幸い、逃げ出す。栗林中将の命令…ひいては国の為に という使命感ではなく、自分の『生きて妻子の下へ戻る』という願いが西郷を走らせたのだと思う。自分の願いが叶う可能性のより高い命令に従いたいと思う気持ちが。上官が西郷・清水の自決を見届けず自決したのはラッキーだったのか。あそこで上官が見届けていたら西郷は自決を選ばざるを得なかったかもしくは脱走兵として射殺されてたのではないかな。西郷のキャラクターはとても現代的だ。
ラスト、栗林中将の自決シーンで「ここはまだ日本か…?」の問いに「はい、日本であります」と応える西郷の頬に涙がつたう。自嘲や目の前の友の死や手足が吹っ飛び内臓が飛び出す恐怖で流す涙ではなく、戦争というものの悲しさやるせなさが堰を切ったように押し寄せ、涙が出た。
栗林中将を渡辺謙が演じたのは大正解。彼が画面にいるだけで、物語が締まる。栗林中将が立てた作戦の詳細は劇中では結局のところよくわからないのだけれど、役者の存在感のおかげで、あの少ない台詞・状況説明の中で栗林中将が人格者であること・彼が立てた作戦が優れたものであることが理屈抜きに伝わる。全世界に配給される作品の主役として申し分ない貫禄。


懇切丁寧に説明なんてしてくれない。見た人に判断は委ねられている。声高に反戦を謳うわけでも、散り様をドラマとして描写し感動作に仕上げられているわけでもない。泣いた、という部分で言えば9日の夜にテレビで放映されたドラマのほうがよっぽど泣ける映像だった。映画「硫黄島からの手紙」は硫黄島の戦いを詳細に描いたものでは無い。イレギュラー(いわゆる戦争映画の主人公の一人として。逆に、西郷のような 武器を持つのも初めてで満足に扱えず兵士としての能力を持たないごく普通の男、が大多数だったとも言えるのか。)な西郷の目線を借り、あくまでも俯瞰でとらえたものだ。


私はこの映画を映画として評価は出来ない。良い映画なのか?それすらもよくわからない。硫黄島で何があったのか、それはこの映画を見てもわかりはしないと思う。
ただ私にとってこれはものを見るきっかけをくれた。硫黄島を知りたくなり、そして知るたびに衝撃を受けています。私は知らない事がたくさんある。東京のすぐ向こうであれだけの激戦が繰り広げられたことすら知らなかった。
知らない、っていうのはあんまりなんじゃないかと思う。無知は言い訳にはならない。


役者は皆素晴らしかったと思います。主要キャスト皆が役にハマっていて、ハリウッドならではのリアルな戦争描写と同じスクリーンの中で遜色無い存在感を持っていた。渡辺謙さんはもちろん、二宮さんも伊原さんも加瀬くんも獅童もとても良かった。いいキャストだ。イーストウッドの目は凄いな、と思う。